介護の現実:貯蓄があっても「心の糸」は切れる

【FPが解説】年金月15万円、貯金1,200万円でも「心の糸」が切れる?75歳要介護の父と娘が直面した現実から学ぶ、今すぐ始める介護の備え
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「もう無理です…」。この言葉が、ある一人娘さんの口からこぼれた日、彼女の「心の糸」はついに切れてしまいました。きっかけは、年金月15万円、貯金1,200万円という、一見すると安定した経済状況にあるはずの75歳のお父様が要介護状態になったことでした。

「これだけの貯蓄と年金があれば、大丈夫なのでは?」そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現実の介護は、想像をはるかに超える経済的・精神的負担を伴います。今回は、このニュースから見えてくる介護の現実と、ファイナンシャルプランナーとして、私たちが今からできる具体的な備えについて解説します。

なぜ「心の糸」は切れてしまったのか?:介護の多面的な負担

ニュースから伝わるのは、年金月15万円、貯金1,200万円という数字だけでは測れない、介護の重さです。経済的な側面はもちろん、精神的、肉体的な負担が娘さんに集中したことが想像に難くありません。

経済的負担だけではない、介護の現実

  • 介護サービスの自己負担額:介護保険が適用されても、自己負担は発生します。要介護度や利用するサービス内容によっては、月に数万円、施設入所となると十数万円以上かかることも珍しくありません。
  • 医療費・雑費:持病があれば医療費がかさみ、おむつ代や送迎費、日用品など、介護には様々な付随費用が発生します。
  • 介護離職・キャリア中断:家族の介護のために仕事を辞めたり、セーブしたりすることで、収入が減少し、将来の自身の年金にも影響が出ることがあります。特に「一人娘」という立場では、負担が集中しやすい傾向にあります。
  • 精神的・肉体的疲労:介護は終わりが見えないマラソンのようなものです。夜間の介護、認知症への対応、外出の制限など、心身ともに疲弊し、「心の糸」が切れてしまうほど追い詰められるケースは後を絶ちません。

「これなら私にもできる!」介護費用に備える具体的な手順と制度活用

このような状況に陥らないために、私たちは何ができるのでしょうか。早めの準備と情報収集が何よりも重要です。ファイナンシャルプランナーとして、読者の皆様が「これなら私にもできる!」と思える具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:親と話し合い、介護の希望や現状を把握する

最も重要なのは、親御さんとのコミュニケーションです。介護が必要になった時にどうしたいか、どのような生活を送りたいか、意思を確認しておくことが大切です。

  • 介護の意向確認:「もしもの時、在宅介護を希望するのか、施設入所を希望するのか?」
  • 経済状況の把握:親御さんの貯蓄額、年金月額、加入している保険などを大まかにでも把握しておきましょう。貯金1,200万円年金月15万円がどのように使われるか、具体的なイメージを持つことが大切です。

メリット:親の意思を尊重した介護が可能になり、いざという時の判断がスムーズになります。家族間の認識のズレを防ぎ、無用なトラブルを避けることができます。

ステップ2:公的制度を最大限に活用する

日本の介護保険制度は非常に手厚いものです。これを賢く利用することが、経済的負担を軽減する第一歩です。

1. 介護保険制度の利用

  • 要介護認定の申請:親御さんが75歳で要介護状態になった場合、まずは市区町村の窓口で要介護認定を申請します。認定されると、介護サービスの自己負担が原則1割(所得に応じて2割または3割)に軽減されます。
  • ケアマネージャーとの連携:認定後、ケアマネージャーが個々の状況に合わせたケアプランを作成してくれます。どのサービスをどれくらい利用するか、専門家と相談しながら決めましょう。

メリット:質の高い介護サービスを少ない自己負担で利用できます。専門家が間に入ってくれるため、介護の知識がない方でも安心して利用開始できます。

2. 高額介護サービス費制度

  • 自己負担額の上限:介護保険サービスを利用した場合の自己負担額には、所得に応じた月ごとの上限が設けられています。この上限を超えた分は払い戻される制度です。
  • 申請方法:多くの場合、市区町村から対象者へ通知が来ますが、必ずしも自動で適用されるわけではないため、確認が必要です。

メリット:介護サービスの利用が長期化しても、家計への負担が過度にならないように守ってくれます。

3. 医療費控除の活用

  • 対象となる医療費・介護費:介護サービスの中には、医療費控除の対象となるものもあります。年間で一定額以上の医療費を支払った場合、所得税や住民税が軽減されます。
  • 領収書の保管:対象となる費用を把握し、領収書をきちんと保管しておくことが重要です。

メリット:税負担を軽減し、間接的に介護費用を抑えることができます。

ステップ3:経済的な備えを具体的に計画する

公的制度だけではカバーしきれない部分を、どのように補うかを考えます。

  • 介護費用シミュレーション:親御さんの健康状態や希望する介護の形に基づき、将来どれくらいの費用がかかるか試算してみましょう。在宅介護か施設入所かで大きく変わります。
  • 民間の介護保険の検討:公的介護保険だけでは足りない部分を補うために、民間の介護保険の加入を検討するのも一つの方法です。一時金や年金形式で給付されるタイプがあります。
  • 資産形成の見直し:自身の老後資金と親の介護資金を区別し、NISAやiDeCoなどを活用した資産形成を早めに始めることで、将来の選択肢を広げることができます。

メリット:将来の不測の事態に備え、経済的な不安を軽減できます。計画的に準備することで、より多くの選択肢を持てるようになります。

まとめ:早めの準備が「心の糸」を守る鍵

年金月15万円、貯金1,200万円があっても「心の糸」が切れるほど追い詰められてしまう介護の現実。これは決して他人事ではありません。

介護は「いつか来るもの」ではなく、「いつ来てもおかしくないもの」です。今日からでも遅くはありません。親御さんとの対話を始め、公的制度について調べ、自身の家計を見直す。これらの小さな一歩が、あなたやご家族の「心の糸」を守る大きな力となります。

不安な場合は、ファイナンシャルプランナーや地域の包括支援センターなど、専門家に相談することをお勧めします。一人で抱え込まず、利用できる制度や専門家の力を借りて、賢く介護に備えましょう。

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